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一個人の見解です。

身近な観賞魚の生理学

この記事はとある授業で提出した最終レポートを元に執筆したものです。淡水魚にどハマり中のわたしの学習記録として、身近な観賞魚として人気の高いキンギョとメダカを取り上げて、その相違点や生理学について末尾の参考文献を元に言及しました。

 

キンギョとメダカは共にホームセンターなどで売られているようなとても人気のある観賞魚である。ホームセンターに訪れる人々は両方の魚について「魚である」という認識でしか持っていないだろう。しかし、キンギョとメダカにはしっかりと違いがある。

もちろんどちらも魚類であるので、それらは動物界、脊索動物門、条鰭綱という生物分類学における「綱」の階級までが同じである。ちなみに、「綱」というのは魚類の下位分類の一つを指す言葉である。

まず、キンギョとメダカは「綱」以下の分類が全く異なっており、キンギョはコイ目、コイ科、フナ属、キンギョという分類で、メダカはダツ目、メダカ科、メダカ属、メダカという分類である。

 

また、キンギョとメダカの大きな違いは狭塩性か広塩性かという点である。キンギョを50%の濃度に薄めた海水で泳がせると、3時間も経てばその生残率は0になる。50%に薄めた海水でこの有り様なので、キンギョは海水中では生きられない淡水魚である。

淡水か海水かどちらか一方でしか生きられない魚は狭塩性の魚と呼ばれる。一方メダカは、実は淡水のみならず海水でも生きることができる広塩性の魚である。

 

なぜ同じ「魚」であるのに狭塩性、広塩性という違いが生じるのだろうか、と。この疑問を解決するためには、浸透圧調節について知る必要がある。

浸透圧とは、二つの濃度が異なる液体が半透膜(水のみを通す膜)を介して隣り合った時に、濃度を一定に保とうとして水が濃度の薄い側から濃い側に移動する圧力のことである。

魚はそれぞれ海水、淡水に適応するべくこの浸透圧を調節しながら生きている。魚における半透膜とは鰓である。また、海水においては、濃度が濃いのは海水、濃度が薄いのは魚の血液、淡水においては、濃度が濃いのは魚の血液、薄いのは淡水ということになる。

 

まず、狭塩性で淡水魚であるキンギョの浸透圧調節について説明する。キンギョは周りの水よりも自身の血液の方が塩分濃度が高いため、周りの水が鰓を通じて勝手に体の中に入ってくる。この勝手に入ってきた余分な水を捨てる必要があるため、多量の尿を作って排出することで調節をする。

また、魚の鰓というものは完全なる半透膜ではないためある程度塩分の行き来が生じる。そのためキンギョの体から貴重な塩分が流出してしまうのだが、その分キンギョは体外から塩類を取り入れる仕組みを持っている。

淡水でしか生きられない狭塩性の魚は、淡水中に溶けているわずかな塩類を鰓にある塩類細胞から取り込んでいるのだ。

 

メダカもまた、淡水中を泳ぐ際は先に述べたキンギョと同様の浸透圧調節をする。一方で海水中を泳ぐ際には、周りの水が自身の血液よりも塩分濃度が濃いため、脱水が起きてしまう。そこで体内に水分を取り入れるべく水を多量に摂取する。しかし、摂取できる水は塩辛い海水であるため、余分な塩分まで摂取することになる。

海水魚やメダカのような海水でも生きられる広塩性の魚はこの体の余分な塩分を鰓にある塩類細胞から排出する仕組みを持っている。

 

このように淡水魚と海水魚の浸透圧調節では、どちらも鰓にある塩類細胞が重要な役割を担っていることがわかったが、この塩類細胞こそが、キンギョとメダカの違いである狭塩性と広塩性の鍵である。

キンギョをはじめとする淡水の狭塩性魚では塩類細胞が周りの水からの塩類の取り込みに特化しているので、海水魚のように塩類を排出することはできない。逆に海水の狭塩性魚(例えばマグロなど)の塩類細胞は塩類の排出が専門で、取り込む能力はない。

一方でメダカのような広塩性魚の塩類細胞は環境水の塩分濃度に応じて、塩類を取り込んだり排出したりと、臨機応変に働きを切り替えることができる。

 
参考文献
金子豊二.2015.「キンギョはなぜ海がきらいなのか?」.恒星者厚生閣.p17-18,p37-38,p43-48,p58
会田勝美・金子豊二.2013.「増補改訂版 魚類生理学の基礎」. 恒星者厚生閣.p204-233